戦術において相手の弱点を突くのは基本中の基本 by 新選組三番対組長 斎藤一
時は令和6年、場所は渋谷。モフモフのブルゾンを羽織り、ファミリーマート前で一人、鮭おにぎりを頬張る僕、明影マサヒロ。
――確実に浮いている。
もうね、わかるもん。わかっちゃんもん。田舎者臭がね、自分自身でも。人混みに慣れていない感じとか、向こうから歩いてくる人を避けようと逆にフェイント合戦になっちゃうとことか、赤とか青の髪色の人を見かけたら2、3度見返しちゃうとことか、ファミマで並んでいる列が自分だけ逆側だったりとか……
たまたま近くにユニクロあったから試しに入ってみたけど、混み具合半端ないし、立ち止まって見ている暇なんてない。店員さんもセカセカして話しかけられない。
自分一人が時の流れに置いてかれている。そんな孤独感をおかずにむしゃむしゃと食べる鮭おにぎり……悲しい。
こうなることがわかっていながら、どうして引きこもりで有名な僕がなぜ陽キャが集う渋谷に来ているかというと、目的は舞台観劇。
そう――
『爆剣~帝国幻想兵団~』を見に、渋谷にある開場『CBGKシブゲキ』に来ているのです!
推しは本西彩希帆さん!楽しみだ―!!!
……ということなんですが、爆剣の話はまた次の機会で。なぜなら最終公演が23日の月曜日。今あれやこれや語るとネタバレになる恐れがあるので、そこは紳士的な対応で我慢。
じゃあなんで、観劇前のエピソードなんか書いているのか?
僕くらいになると、観劇前からすでに物語は始まっているんです。いや、本音を言うと始まんないでほしかったんです、切実なほどに。
あのね、鮭おにぎりを食べていたらね、突然声をかけられたんです。
「あれ?渋谷に友達なんていたかな?(むしろリアルに友達いたかな?」
そう思って振り向いたらね、うん。まったく知らない人。ガタイの良いドレッドヘアーの黒人。しかもグラサンかけてる。だいぶ強面。しかも超絶早口の英語で猛攻撃してくる。
なんで?なんで僕なの?どうして?
確かに暇そうに鮭おにぎりを頬張っていたのは事実だよ?だけどさ、あからさまにいるじゃん。僕の少し左側にさ。あきらかに外国人の方が。英語喋るならどう考えたってそっちに話した方がいいはずじゃん?なのにわざわざ僕に話しかけてくるなんて……
あれか、戦術において相手の弱点を突くのは基本中の基本ってことか。周りに何人か暇そうな人がいたけど、結局僕が一番弱そうに見えた……そういうことか?
ドレッド(ドレッドヘアーの黒人)が怒涛の英語で喋りかけてくるも、まったくわからない。もはや本当に困っているのか、なにかの勧誘なのか、人攫いなのか……さらには声がでかいし、周囲の人からの視線も感じるし……頭がパニック。
しかし――聞こえた……唯一、僕がわかる。理解できた単語……
「アッポーストアー」
あっぽーすとあー?……あっぽーすとあ……
しきりにジェスチャーするドレッド。見せてきたのはドレッドのスマホ。画面にはヒビが入り、どうやら電源が入らないご様子。そして聞き取れた英単語「あっぽーすとあー」。ここから連想される、ドレッドが訴えていること、それは……
『スマホ壊れたから近くのアップルストアの場所を教えてくれませんか?』
これだ!もろたで工藤!
渋谷なんて人生で2回目とかだから、アップルストアの場所なんてわからない。だけど僕には先生がいる。Googleという人生の先生が!
Googleマップを開こうとスマホを取り出す僕。その時――
「Oh オーケーオーケー、ソーリーソーリー!」
ドレッドはスマホを開こうとする僕を止め、しきりにオーケーオーケーとソーリーソーリーと連呼。
え?まだ全然オーケーじゃないんだけど?むしろ本領発揮はこれからだよ?
しかしドレッドは、
『ごめんねー』っていきなりの日本語。
最後にそれだけを言って、去っていった。しかもなぜか握手をされた。
……………………
えーーーーーー!!!!!!!!!!待ってよ!あと少しなのにー!!せっかく理解できた(はず)なのにー!!!!
だけど、彼を引きとめられる英会話能力もない僕は、ドレッドの背中を見送ることしかできなかった。
ドレッド……あいつ、異国の地で普通に困っていただけなのに――
暫くやめていたデュオリンゴを再度始めようと思った、そんな一日になりました。
来年こそは英語を少しでも喋れるようにしたい!
そしてドレッド、こちらこそごめんね!!!次はちゃんと教えられるように頑張るよ!!!
っていうか、今やインバウンドの影響で外人もたくさんいるから、そっちに話かけるっていう選択肢もあるからねーーー!!!